雪乃を呼べ、それが絶対条件

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雪乃を呼べ、それが絶対条件

この辺りから、僕はしばしば、教授某に誘われて、大学近くの喫茶店に呼び出されることになる。 先にも少し触れたが、教授某は、極端なわがまま、かつ怖いもの知らずであった。たまたま同じクラスの、僕の女性の友人に、教授某に本気で「恋して」いた子がいる。彼女は、「某先生にアタックする」と意気込み、僕はかすかな不安を覚えはしたが、彼女を応援はしていた。だが、すぐに、僕は、目を泣きはらした彼女から喫茶店に呼び出され、(詳しくは書けないが)顛末を聞かされる羽目になる。しょっぱなから相手は喧嘩腰、聞くに堪えないような嫌味の数々を並べ立て、彼女が泣きだしても平気の平左、フォローの1つもない。少しずつ、女子学生たちが、教授某を遠巻きにし始めるのがわかる。 その一方で、相当数の男子学生からなる信奉者…「お取り巻き」が、少しずつ増えていき、まさに「大名行列」といった趣で、彼ら「信者」を従え、教授某は堂々とキャンパス内を闊歩するようになった。僕はもちろん、「お取り巻き」ではない。なぜなら、彼らは見るからに陰気そうであり、悪い意味でオタクっぽく、僕の肌に合わなかったからだ。 その「お取り巻き」に、僕は、ある日の夕刻、校舎内で突然、取り囲まれることとなる。もちろん、全員、全くの初対面である。 「あの、雪乃さん、突然のお話で、大変、申し訳ないんですが」 お取り巻きの1人が、意外にも礼儀正しい物腰で切り出す。 「なんでしょうか?実は僕、アルバイトで結構、忙しいんですよ。」 「今度、『哲学』の講義を聴講している学生で、コンパをやるんですが、ぜひ雪乃さんに来ていただきたいんです。というのは、コンパの提案をした際に、某先生が、『コンパをなさるなら、雪乃くんを連れて来なさい。それが、絶対条件です。雪乃くんがもし、いらっしゃらないのであれば、僕はコンパには参加しません。皆さんで、お好きにおやりなさい。』と、おっしゃったものですから…。」 それを聞いて、僕は、芯から呆れ果てた。相変わらず、凄まじいわがままっぷりである。 その時、僕は、学生たちに完全に取り囲まれている状況だったので、提案を承諾せざるをえなかった。
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