1年坊主、「代理講義」を教授に命じられる

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1年坊主、「代理講義」を教授に命じられる

今、考えれば、教授某としては、「手加減して様子を見ながらのエスカレート」を考えていたのだろう。 教えている途中で、突然、授業を中断し、んー…と伸びをする。そのまま、頭の後ろで手を組んだ。 「ねぇ、雪乃くん。」 何の脈絡も無しに、いきなり僕に話しかけてくる。 「このテキストの続きなんですが、君が教えてくれませんか?」 「はぁ!?」 当然のことながら、教室一同、唖然呆然である。 「だって、君、このクラスでは成績は抜群、トップじゃありませんか。活用と格変化ぐらい、簡単に教えられるでしょう?やってご覧なさい。もし、君が間違えたら、僕が訂正を入れますから。」 仕方なく立ち上がり、黒板を使いながら、汗だくになって教え始める僕。 教授某はそれを眺めながら、優雅に扇子を広げ、自分をぱたぱたとあおいでいる。 一応、なんとか僕が『授業』を終えると、教授某は、ご満悦の笑みで、 「はい、結構です。僕が補足するところは、ありません。」 と、言った。 授業後に、教授某に呼ばれる僕。 「大変、結構なご講義でしたよ?あなた、これからも時々、授業を任せますので、どうぞ入念に予習をしてきてください。」 そう言いながら、教卓の上のクリアファイルをぱたぱたと片付ける。 その時、僕は見てしまった。 クリアファイルのうちの1枚に、僕の顔写真付きの学生証のコピーが、大事そうに収められているのを。 いったい、何故、そんなものが必要か? 毎年、大学から成績優秀者に与えられる「奨学金」を受ける者のリストに僕を加えようと思っているのであれば、学生証のコピーまでは必要ない。講師に配布される「履修者名簿」のデータで、十分なはずだ。 だいたい、どうやって手に入れたのだろう?学務部事務課に行けば、確かに「原本」はある。そこで、適当な理由をつけて、コピーを入手したのだろうか。
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