0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
1年坊主、「代理講義」を教授に命じられる
今、考えれば、教授某としては、「手加減して様子を見ながらのエスカレート」を考えていたのだろう。
教えている途中で、突然、授業を中断し、んー…と伸びをする。そのまま、頭の後ろで手を組んだ。
「ねぇ、雪乃くん。」
何の脈絡も無しに、いきなり僕に話しかけてくる。
「このテキストの続きなんですが、君が教えてくれませんか?」
「はぁ!?」
当然のことながら、教室一同、唖然呆然である。
「だって、君、このクラスでは成績は抜群、トップじゃありませんか。活用と格変化ぐらい、簡単に教えられるでしょう?やってご覧なさい。もし、君が間違えたら、僕が訂正を入れますから。」
仕方なく立ち上がり、黒板を使いながら、汗だくになって教え始める僕。
教授某はそれを眺めながら、優雅に扇子を広げ、自分をぱたぱたとあおいでいる。
一応、なんとか僕が『授業』を終えると、教授某は、ご満悦の笑みで、
「はい、結構です。僕が補足するところは、ありません。」
と、言った。
授業後に、教授某に呼ばれる僕。
「大変、結構なご講義でしたよ?あなた、これからも時々、授業を任せますので、どうぞ入念に予習をしてきてください。」
そう言いながら、教卓の上のクリアファイルをぱたぱたと片付ける。
その時、僕は見てしまった。
クリアファイルのうちの1枚に、僕の顔写真付きの学生証のコピーが、大事そうに収められているのを。
いったい、何故、そんなものが必要か?
毎年、大学から成績優秀者に与えられる「奨学金」を受ける者のリストに僕を加えようと思っているのであれば、学生証のコピーまでは必要ない。講師に配布される「履修者名簿」のデータで、十分なはずだ。
だいたい、どうやって手に入れたのだろう?学務部事務課に行けば、確かに「原本」はある。そこで、適当な理由をつけて、コピーを入手したのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!