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朝、深夜の喧騒が去ったクアラルンプールの屋台通りを友人と一緒に歩いていると女性の怒った声が聞こえた。
次いでバシッという肉を打つ音(映画やドラマと違って衝撃的な効果音は鳴らない。ただ物理的な音が空間を跨いで私の耳に届いただけだ)。
すぐ近くだ。
私たちは思わず立ち止まった。
見ると通りの向こう側、閉まった屋台の前で男女が向かい合っていた。
異国の女の人が左頬を押さえて怒りの形相で相手を睨んでいた。
怒声は彼女のものだろう。
相手の男は大柄で筋肉質の異国人だった。
恐らく彼女と一緒同じ国から来ているのだろう。
こちらからは聞こえない声で何かを言っている。
異国の女性が何かを言った時、男の太い腕が上がった。
そして何かを思う間もなく殴打された女性の髪が宙を舞っていた。
女性は直ぐに何かを叫んだが、それが男の激情に油を注いだらしく続けて二度三度顔を叩かれて地面に崩れ落ちた。
顔から地面に叩きつけられていたが、その音は遠くから見ていた私には聞こえなかった。
映画やドラマにお決まりの悲鳴もなかった。
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