幼馴染みからの手紙

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  事の発端は十二月の頭へと遡る。 木枯らしが吹き荒ぶ今年一番の寒波、という信用のならない言葉が天気予報で報じられた日。僕たちはいつも通り肩を並べて通学路を経て登校した、家から一番近かったから。 在り来たりな動機で選んだ星空高校(ほしぞらこうこう)だったけれど通い始めてみれば案外悪くはなく満足した二年と数ヵ月を過ごしてきた、“特別学科”も流れ去った年月は充実したものだったと想う。補足すると僕は本当に家から一番近かったからという在り来たりな動機であったが佐織は違い特別学科で専攻したい教科があって夢を目指す為にとちゃんとした意思をもって入学している。 特別学科とは平たく言えば特別な学科で厳しい審査と実技、知力、礼儀の三項目を突破した生徒のみが入学でき自分で伸ばしたい事柄を選び、学校側が未来のスーパースターを目指してそれを全力でサポートする。言わば才能と努力、向上心の塊、そして礼節を守る人間のみが通える特別高校みたいなもので佐織の専攻している学科は音楽。 昔から音楽の授業が大好きで人一倍熱心に取り組んでいた。小学生に上がりピアノを習い始めた佐織はメキメキと実力をつけ半年でコンクール優勝を飾った。 それからと言うもの佐織を溺愛する両親は大喜びのお祭り騒ぎ、コンクール優勝の翌日には自宅に大金を叩いて購入したグランドピアノが担ぎ込まれた。一般家庭の早瀬川家にそんな資金があるのかと幼いながらに疑問を感じたがどうやら家の親が一枚噛んでいたらしい。 有名人になったら沢山サイン頂戴ね! と、アホらしい約束をして出資を手伝ったとかなんとか。勿論、貯金を貸しただけで通称グランドピアノ借金は中学に進学した年に完済された。 「ねえねえ、優くん」 「んー?」 昼休みの教室、室内には十名ほど生徒が残っている。残った生徒は弁当持参組で他は一階の学食、または購買にでも出掛けているのだろう。くそ寒いのにご苦労なこった、人混みに揉まれて食べる昼食は美味しいか、たまに聞きたくなる。 暖房の入った教室に残った面々は各自友達同士で集まり昼食をしながら雑談を楽しんでいた。僕だけがお弁当を食べずノートとにらめっこをしている、佐織に呼ばれ始めて気づいた。 ふぁーとあくびをひとつ。 いつもながら昼は眠たくてあくび混じりに返答した。机の上に広げたノートを制服の裾で隠し隅に寄せる、佐織の目に触れることを嫌って。
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