幼馴染みからの手紙

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  弁当を食べ終わりまだ隣でせっせと小さな口に食物を運び込む彼女を横目に眠りについた。ちゃんと、話は聴いた。なにやら放課後、高校の屋上に来てほしいらしい。 我が校の屋上は閉鎖されており放課後はおろか、休み時間なども基本的に使用できない。それを問うと先生に無理いっちゃったとチロリと舌をだして鍵の束を掲げる。 音楽科期待の星はなんでもござれの信用絶大であるらしい、悪さをするなど微塵も考えられていない。掲げられた鍵束には屋上の鍵でけでなく校内の鍵がひとつひとつ大きな輪型のキーフォルダーに纏められていた。 チラリと見えたものには校長室、校長室の金庫などという別で保管しろとこちらが慌ててしまうようなものまであった。 大量の鍵から屋上の鍵、屋上の鍵と言葉を反復しながらあった、これだ!とお目当ての鍵を探す、見つけると嬉しそうにこちらに見せたのだろう。が、僕は既に机に突っ伏して寝ていた、なのでなんとなくそんな声と後に続いた不満しか記憶にない。 「神田。いつまで寝てる、早く起きろよー」 「……すみません」 昼休みが終わり五時限目が始まる。 寝ぼけ眼を擦っているとクラスメートの半数がくすくすと笑っているのが見受けられた。隣の席に佐織はいない、特別学科専攻の生徒たちはクラスさえ同じでも普通科の僕たちとは受ける授業の内容も質も圧倒的に違い特別学科棟という新校舎にある教室で個々に授業を受けている。 母の子守唄のように校内にうっすらと響くピアノの演奏、彼ら、彼女らは専攻のなかでも自分が伸ばしたい楽器を選び専属のコーチの下で己の技術を高めていく。僕ら普通科の人間はそれ、いつ役に立つの?みたいな内容を聞き流し退屈な時間を過ごす。 僕にもなにか、才能があれば。 佐織を見ているとそう思わずにはいられなかった。彼女が才能だけで今の地位を得ている訳ではないと痛いほど知っていたのに。 カモフラージュの教科書を開きもう一冊のノートを一番上に置いた。中身を開くと細かな文字がズラリと並ぶ、このノートに名付けるならば“設定資料集”だろう。 物語を構築する以前、どういった世界観にするのか、それらを思考し書留るために使用している。僕の夢見る職業は文字と言葉だけで人の心を動かす仕事、小説家だ。 創作活動はからっきしで設定資料集にはボツネタと“人の心を動かせるような作品を!”の文字が物悲しげに刻まれていた。
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