幼馴染みからの手紙

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  放課後。 部活が終わる時間を待って屋上へ続く階段を登る。この時期、午後七時となれば野外は真っ暗だ。足早に階段を降り帰路につく生徒はいても階段を登り上を目指す生徒はいない。 グランド、テニスコートに配備された照明器具に照らされ部活終わりの疲れきった運動部の生徒たちが後片付けをしている。文化部の生徒たちは談笑し帰路を急ぐ。 「なんの用事があるんだか」 高校三年の冬、ずっと一緒でいてもいなくとも損傷はないと思っていた男女の幼馴染みが二人。ある日、放課後の屋上に呼び出されて扉を開くと冬の風に頬を染める彼女が振り向く。 ともなれば告白以外にあるまい。 曲がりなりにも小説家の道を歩み始めた僕、でなくとも昼間のお弁当の中身くらいド定番だ。もう放課後の屋上に男女の幼馴染みという単語だけでそれしかあり得ない状況と雰囲気を醸し出している。 ふぅと息を吐く。 要らぬ妄想をしたせいで冬だというのに服が肌にへばりついて気持ち悪い。心拍も早まりドアのぶを握る手が震えた。 もう一度、短く息を吐いてドアのぶを回して奥へ押し込んだ。ガチャンと金属に金具がぶつかる鈍い音がして心拍が停止した、素早く振り替える。 だがドッキリ大成功の札はない。 心拍が戻り落胆の息を溢した。服の裾に隠れた腕時計を引っ張り出して時刻を確認、長針は七時手前をさし短針は五十五分を示していた。 ……まだ部活終わってないじゃん。 安堵が全身に浸透して崩れ落ちるようにその場に座った。 特別学科の生徒は授業が終わると自らが所属する部活へと移行する。とは言っても授業と変わらず専属のコーチと演奏し改善点やアドバイスなどを受けるだけであり特別学科の学生は実質七時まで授業みたいなものだ。 僕が部活終わるまで帰らず教室でノートに文字を羅列し待った理由はこれだったがまだ速かったらしい。特別学科棟という新校舎で音楽を学ぶ佐織がここへ到着するのは早くても十五分後になるだろう。 「なにを期待してるんだか」 内に潜む感情を爆発させるように頭を掻き乱した。それからスマホを操作し電子書籍を読んで呼び出し主の到着を待った。
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