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一人の少女が、校門からゆっくりと、ある人物を目指して歩いていく。
先に立っているのは、ある一人の男子学生。
ただし身に纏う制服は、少女のものとは違っていた。
少女が来ているのは赤と白を基調とした色彩なのに対して、彼が着ていたのは真逆であるかのように緑ーー少し青に寄っているがーーと黒をベースとしていて、かなり暗めの印象を与えている。
それもそのはず。なにせ『剣聖育成科』と『魔導士育成科』が両方存在している学校では、取り決めとして普通科など元からあった学科と、『剣聖育成科』と『魔導士育成科』の三つを制服で分別する方針が取られているのだから。
そして魔導士育成科は、剣聖育成科で溢れてしまった者への『逃げ道として用意されたもの』なのだから。
制服の色にまで、その格差が現れてしまっている。
「……相馬兄が魔導科にリタイアしたって、本当の話だったんだ」
生徒の間では新しく設置されたこの二つの学科を『剣聖科』や『魔導科』と省略されて呼ぶことが多い。
だがリタイアという単語は、生徒の中でも(主に魔導士育成科の中だが)あまり好まれていない。
「剣聖育成科で生き残れずに逃げ去った落ちこぼれたち」と、たった四文字の中にそのような侮蔑が隠されていることを皆知っているからだ。
「仕方ないだろう。俺は臓器移植をして、かなりの期間剣を振れる状態じゃなかったんだ。いつリタイア勧告が来てもおかしくはなかったさ。むしろ、三月いっぱいまで待ってくれていた先生方には感謝さえしているよ」
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