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「人の気配がしないのう、既に殺されたか……」、剣が呟いた。
枕元で敵の襲撃を知らせたのが、いま王子の手に握られている短剣だ。
知性を持つ剣、彼は爺と呼んでいるが年齢は不明、爺の話では三百年は生きているらしい。
姿は黒く肉厚の短剣だが、彼の剣の師である。
「目的は何だ、金か、命か?」
敵は腰から剣をゆらりと抜き、王子の疑問に無言で答えた。
「命……か、誰の差し金だ」
敵が剣を振り上げ、王子に飛びかかってくる。
テラスの入り口からベッドの枕元まで、ゆうに七メートルはある。
それを敵は軽々と飛び、枕へ剣を突き刺した。
王子は敵の攻撃を紙一重で回避し、横転しながらベッド下へ転がり落ちた。
すぐ立ち上がり防御の姿勢を取る。
「人のベッドに土足で上がりやがって」
敵がベッドから降り王子を追撃。
身長差を利用し頭上から剣を加速させ、速度と重量で彼を両断しようと攻撃する。
「大の大人が子供に本気になるなよ」
――攻撃が重いんだよ、クソッ、手が……痺れてきた。
金属が衝突する高い音が静かな部屋に幾度となく響く。
王子は迫る剣の腹を横から打ち落とし、剣先の軌道をなんとか逸らせていた。
しかし剣圧でじりじりと後退させられる。
「うぐっ」
剣ではなく足での下段攻撃。剣の攻撃に神経を尖らせていた王子は隙を突かれた。
彼は横腹を蹴られ窓際まで飛ばされる。
「ゲホッ、ゲホッ」、
――くそっ油断した。足技ありなら先に言え。
蹴られた腹を押さえながら彼が立ち上がる。
ほぼ部屋の対角線上を蹴り飛ばされた、あばら骨が折れていても不思議ではない衝撃だ。
敵は王子に休む暇を与えない。ゆっくりと静かに間合いを詰める。
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