第一話 暗殺者の来訪

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雲が月を覆い隠し部屋に差し込む光が失われ闇が二人を包む。 「くそっ、なにも見えん」 「左じゃ」 王子は爺の声に反応し瞬時にバックする。 前髪をかすりながら、目の前を敵の剣が通り過ぎていく。 「爺には見えているのか?」 「まあのぅ、ほれ右上じゃ」 「ッツ!」、王子の腕が軽く裂かれる。 ――熱っ。クソッ……。目隠し稽古、真面目にやっとけばよかった。 爺のナビに先導され直撃は免れているが、体の傷は着実に増えている。 剣がぶつかり合う音と彼の荒い呼吸が、暗闇に色を添えた。 雲が途切れ、月が再び顔を出す。 明るく照らし出された部屋の石畳には無数の血痕が花を咲かせていた。 「後から掃除する奴の身になれよ」 手足から流れ出る血の量に比べ、まだ冗談を言う元気は残っているらしい。 そこへ窓から突風が流れ込む。 ゆらめくカーテンが彼と敵の間に薄い壁を作り出す。 王子はベッド脇のナイトテーブルに置いてある水差しを敵に向かい投げつける。 陶器でできた水差しは敵の剣に当たり砕けた。 溢れた水がカーテンに染み込み、敵の体にまとわりつく。 チャンスは今しかないと、敵に向かいスライディングし股を通り抜ける。 通行料として敵の足首に深いキズをプレゼントしていた。 「グアッ」 振り向きざま、体当たりしつつ敵の背中に短剣を深々と押し込む。 敵は彼の重みに耐えきれず前のめりに突っ伏した。 「言え、誰の命令だ!」 「クックック、王様だよ。――哀れな王子様…………」 ――誰が哀れだ! 敵に同情されたくないわ! 敵から煙と嫌な臭いが漂い出した。 危険を察知した王子は敵から飛び退く。 じゅぐじゅぐと音をたて敵の皮膚がただれていく。 前もって呪いを仕掛けておいたのだろう、服だけを残し溶けて消えてしまった。
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