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「いったいどういうことだ」、息を整えながら彼は愚痴をこぼす。
「王子よ、ドアの向こうを確認してくれるか」
「ああ。――誰もいないな」
「ふむぅ」
「どうした爺」
「衛兵を刺客が倒したのではないとすると、衛兵長に指示をだせる立場……」
「王の側近か王族、もしくは王だけ……」
「ということじゃ」
「そんなばかな、俺の命を取って得する奴など」
「まあ権力を持たぬ第三王子など気にする者などおらんわな」
「爺はひどいな」、少し冗談っぽく笑った。
「で、どうする王子よ」
「王に会う」
「殺されに……か?」
「なぜそうなる。コイツが嘘を吐いた可能性もあるだろう」、と刺客の残した服を蹴る。
「本当だった場合はどうじゃ? 確たる証拠もなく詰め寄っても王は自白などせぬぞ。はぐらかされ次は確実に葬られる」
「なら兄上に――」
「兄たちの策謀でないと言い切れるのかね?」
「クッ……」、苦悶の表情を浮かべる。
「誰かおらぬのか、確実に信頼できる奴は」
「……いない。俺はいつも兄上たちの後ろに隠れていた。父上と母上に守られていた」
――日頃の行いが原因だとでも言うのか? 俺に接近する者など誰もいなかったのだ……。たまに話す配下は俺ではなく王に仕えているのだ、彼らに深く接しなかったのが間違いだとでも?
「まあ、そうじゃろうな」
「頼れる者などおらぬ、いったいどうすれば……」、絶望に満ちた表情。
「足掻くしかないじゃろうて」
「俺に何ができる……」
「剣が1本と手足がある、生きていくのに不都合などあるまい?」
「城を捨て、泥をすすって生きろと?」
「生きたければ……な。――何を躊躇っておる、親離れするのが怖いのか? 地位を捨てるのが惜しいのか?」
「ハハッ……、爺その通りだ。俺は一人になるのが怖いし、王子という鎧が無くなるのも惜しい」
絶望していた表情に僅かだが覇気が戻り始める。
「けどな、命を失うのはもっと嫌なんだ」、王子はテラスに向かって歩き出す。
「爺、俺に手を貸してくれるか? この狭い鳥籠から抜けだし生き抜いてみせる!」
「ハッハッハ、わしに手は無いが、まあ知恵は貸してやるよ」
王子は月が姿を隠すのを待ち暗闇に紛れ城を抜け出したのだった。
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