第一話 暗殺者の来訪

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「いったいどういうことだ」、息を整えながら彼は愚痴をこぼす。 「王子よ、ドアの向こうを確認してくれるか」 「ああ。――誰もいないな」 「ふむぅ」 「どうした爺」 「衛兵を刺客が倒したのではないとすると、衛兵長に指示をだせる立場……」 「王の側近か王族、もしくは王だけ……」 「ということじゃ」 「そんなばかな、俺の命を取って得する奴など」 「まあ権力を持たぬ第三王子など気にする者などおらんわな」 「爺はひどいな」、少し冗談っぽく笑った。 「で、どうする王子よ」 「王に会う」 「殺されに……か?」 「なぜそうなる。コイツが嘘を吐いた可能性もあるだろう」、と刺客の残した服を蹴る。 「本当だった場合はどうじゃ? 確たる証拠もなく詰め寄っても王は自白などせぬぞ。はぐらかされ次は確実に葬られる」 「なら兄上に――」 「兄たちの策謀でないと言い切れるのかね?」 「クッ……」、苦悶の表情を浮かべる。 「誰かおらぬのか、確実に信頼できる奴は」 「……いない。俺はいつも兄上たちの後ろに隠れていた。父上と母上に守られていた」 ――日頃の行いが原因だとでも言うのか? 俺に接近する者など誰もいなかったのだ……。たまに話す配下は俺ではなく王に仕えているのだ、彼らに深く接しなかったのが間違いだとでも? 「まあ、そうじゃろうな」 「頼れる者などおらぬ、いったいどうすれば……」、絶望に満ちた表情。 「足掻(あが)くしかないじゃろうて」 「俺に何ができる……」 「剣が1本と手足がある、生きていくのに不都合などあるまい?」 「城を捨て、泥をすすって生きろと?」 「生きたければ……な。――何を躊躇(ためら)っておる、親離れするのが怖いのか? 地位を捨てるのが惜しいのか?」 「ハハッ……、爺その通りだ。俺は一人になるのが怖いし、王子という鎧が無くなるのも惜しい」 絶望していた表情に僅かだが覇気が戻り始める。 「けどな、命を失うのはもっと嫌なんだ」、王子はテラスに向かって歩き出す。 「爺、俺に手を貸してくれるか? この狭い鳥籠(とりかご)から抜けだし生き抜いてみせる!」 「ハッハッハ、わしに手は無いが、まあ知恵は貸してやるよ」 王子は月が姿を隠すのを待ち暗闇に紛れ城を抜け出したのだった。
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