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ここはアルトリッヒ大陸の南東に位置する小さな村トラスダン。
村人同士が助け合う、平和で静かな緑多き農耕地域だ。
雲一つない青空、柔らかな日差しが村を優しく照らしていた。
「フッ」
「ハアッ!」
木製の模造刀がぶつかり合う軽快な音が、村外れにある広場に響いていた。
剣の訓練だろうか、二人の男性が対峙している。
「ガット、そろそろ休憩しようか」
額から汗を流し、浅い呼吸を整えている。
彼はケイン・ワイカロス、この村に住む体格の良い十八歳の青年だ。
「そうだな」
彼は命を狙われ祖国を捨てた魔王の第三王子だ。
今はガット・ウルリガと名乗っている、今年で十三歳になる。
城を抜け出したガットは、獣と戦いながら森を抜け、街では食料を盗みながら飢えを凌ぎ、心身共に限界状態でこの村に辿り着いた。
「ガットがこの村に来てもう3年か……」
「あの時、ハスエルが助けてくれなかったら今頃俺は」
老人が過去を思い出すかのように、遠くを見つめるガット。
「私がなーに?」
ブラウンのもふもふした髪を揺らしながら話に入ってきたのは、ハスエル・テシードン、この村に住む十七歳の少女だ。
ケインとハスエルは幼馴染みである。
三年前、ハスエルは隣に住む村長に夕食を届けに行くとき、道に倒れていたガットを発見し救護したのだ。
「命の恩人だって話しさ」、ケインが陽気に答える。
「あ-、私って野良猫、拾っちゃうのよね」、悪戯っぽく笑いながらガットを見る。
「俺は野良猫かよ」
「もっと酷かったでしょ、体中傷だらけで、やせ細っちゃって。野良猫のほうが逞しいわよ」
「グッ……」
「今ではたいぶマシになったけどね」
「もっと食べないと駄目だよ。私と同じ背丈じゃかっこつかないよ」
「ケインがでかすぎなんだよ」
ケインとガットは拳二つほど背の高さが違う、それにケインは骨太でがっしりした体格だ。
ガットも筋肉は普通の子より多く付いており華奢という感じではない。言うなれば細マッチョだ。ただし同年代と比べれば背は少し低いかも知れない。
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