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消え入りそうな声で何か答えようとするが、唇が震えて言葉にならない。
「怖れるな。声を聞かせよ。おまえの美しい声が聞きたい。」
「…否は…ありえないことです…」
シオンはその答えに不満だった。
「わたしはおまえに問うている。答えの意味がわからぬ。」
ミュセルはシオンの更なる言葉にいよいよ小さくなって繰り返した。
「ありえない…ことです。あなた様は…神であられる故に。人に…人に、否はございません…」
ミュセルの声には絶望的な諦めが滲んでいた。
シオンはミュセルの言葉が理解できず、不快になった。
更に問おうとしたが、無駄な気がした。
そのままミュセルを置き去りに、シオンは衣を纏い館を出る。
入り口で侍していたジュラに「衣を着せよ…」と投げるように言い残し、風のように何処かへ出掛けた。
追うこともかなわず、ジュラはミュセルのための美しい衣を持ってシオンを見送った。
涙にくれるミュセルを見て、ジュラもまた不思議に思った。
と同時に、その肢体の美しさに息を呑んだ。
しばし見惚れ、そして見惚れた自分に不快さを覚えた。
自然とがめるような口調になりミュセルに問う。
「あなたはなぜ泣いている?シオン様に望まれ、人の身でありながら神界に入り込み、あろうことかシオン様と居を共にするという。泣くなどおかしいではないか…。」
ミュセルはジュラに驚き、夜具を引き寄せうずくまるように平伏した。
「わたしはジュラ。シオン様からあなたの世話を命じられた。私にそのような礼は無用です…。」
ジュラはミュセルに近寄り衣を着せ掛けながら言った。
その存在を不快に思いながらも、やはりジュラは主であるシオンの命にはあくまで忠実な僕ではあった。
黙ったまま動けずにいるミュセルに苛立ちながらも、丁寧に身を起こさせ着衣させる。
神界の衣に身を包んだミュセルはなんとも艶かしく美しく、それでいて清らかでもあり、不思議だった。
"この女は何者なのだろうか…"
ジュラの脳裏に「選ばれし者」という言葉が浮かぶ。
ジュラはなにかいたたまれなくなり、ミュセルのもとを離れた…
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