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どの次元の、どの時間軸の世界の話かは定かではない。
これはひとつの神話、とでも説明しておこうか。
私達の住むこの世界にも似た話は多々あるだろう。
わかりやすくするために「神」と「人」と表そう。そしてその世界のあらゆる環境を私達の世界と同じ名をつけて表そう。
たとえば、山や空、花、鳥、など…。
・・・・・・・・・・
混沌とした闇の中に神が生まれた。
実体はない。
強いて言えば何かの意志のような存在だった。
神は混沌を整理して世界を造ろうとした。言い換えれば、自分の庭を造ろうとしたのだった。
それは長い長い作業になった。
ある時、その世界にたくさんの人が生まれた。
それは全くの偶然の産物だった。
神は驚き、しかし満足した。とても美しいと思ったからだ。
神は面白くなって色々の動くものを作った。
しかし人よりも美しいと思う作品は出来なかった。
しばらく世界を眺めて遊んだ。しかしすぐに人らは騒々しく辺りを荒らし始めた。
何が足りないか?
少し考えて、神は自分の分身を作った。
人には秩序が欠けている。
神は世界に秩序を与える存在として、人の姿に似せた自分の分身を作ったのだ。
あるいは人に嫉妬したのかもしれない。その分身はどの人よりも美しく出来上がった。
名をつけた。
シオンと呼んだ。
シオンは神と同じ能力を持ち、神と同じく冷酷であった。
いや、創造主を冷酷というには語弊がある。言い換えれば我儘。それも当然ではある。この世界は神が造った。私物を思うままに扱ったとて悪いことはない。
シオンは人びとの世界に立ち様々なことを成した。
言葉を与え、思考を与え、快楽を与え、快楽を罰する苦痛をも与えた。
人の内に心が生まれ、人は畏れることを知った。
人はシオンを神と畏怖し、そして憧れ、崇拝した。
彼の起こすあらゆる事象の中にさえ別の神がいると怖れた。
神はシオンに十分満足した。
人がそう考えたとおり、あらゆる事象の中にシオンのような分身を作った。
そして、神と人とを分けるため、自分の分身達を次元を区切った山に住まわせた。
人はそこを神々の山と呼び、畏れ敬った。
そしてもうひとつ、神は「死」を人の世界に与えた。
人は老いて醜くなり滅んでゆく。
その代わりに快楽の副産物として新しい人が出来てゆくようにした。
しばらく人の営みを見て楽しんだ。
しかしそのうちに興味が失せた。
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