第3話 略奪

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「ミュセルよわたしを見よ。」 シオンは二人の前にその姿を現した。 まぶしいオーラの中に立つ声の主を見て、ミュセルとシュテルは地にひれ伏した。 二人とも恐れと驚きのために息をすることさえ忘れたようにただ震えている。 「我が名はシオン。美しき女ミュセルよ、我に仕えよ。」 シオンはただそれだけの言葉を与え、ミュセルを腕に抱き上げた。 ミュセルは怖れのあまり気を失った。 「ミュセル!」 シュテルが恋人の名を叫ぶ。 シオンはその声に眉をひそめ彼を睨み付ける。 「おまえは無用だ。去るがよい。」 泣きながら恋人の名を叫ぶシュテルには構いもせず、シオンとミュセルは一瞬のうちに姿を消した。 あとには呆然と恋人の名を呼び続けるシュテルだけが残された…。 ・・・・・・・・・・ シオンはミュセルを腕に抱いたまま、ジュラを呼んだ。 淋しく神界に戻りシュテルの帰りを待っていたジュラの顔が輝く。 すぐにシオンのもとに現れ跪いた。 「この女の世話を。名はミュセル。わたしとともに住まう。」 「…。」 顔を上げたジュラはシオンの抱く女に気づき、驚きのあまり返事もできないでいる。 「新しき衣を。」 シオンはジュラの様子には構わず、ミュセルを寝台に横たえると傍らに腰掛け、髪や頬にそっと触れている。 その指先のなまめかしさに、ジュラの胸の奥がチリチリと微かな音をたてた。 「下がってよい。」 シオンは、ぼんやりと自分を見つめるジュラに怪訝そうな眼差しを向け、命じた。 「…はい。ただいま新しき衣をお持ちいたします。…。」 「あとでよい。」 シオンはもうミュセルに視線を戻し、彼女の粗末な衣に手をかけていた。 「…。では後程お持ちいたしましょう…。」 立ち去るジュラ。 少しあと、ジュラの耳に哀れなミュセルの悲鳴が届いた。 ジュラの胸がまた微かな音をたてた…。
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