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ボクはフェンスに掴まり、何気なく校庭を見下ろしていたところだった。
鈴の音のような声がして、振り返ると、彼女がいた。
「来てくれたんですね。ごめんなさい。突然……」
「ううん。――でも、ちょっとびっくりした」
「ですよね。――あ、自己紹介もまだだった。ボク、2年4組の千田ひなたといいます」
すると、彼女はふわりと笑って言った。
「私、3年4組の花井ゆみえです。」
「ゆみえさん……ゆみえ先輩。可愛らしいお名前ですね」
決してお世辞なんかじゃなく、心の底から彼女にぴったりの名前だと思った。
「あ、ひなたくん? どこかで見た顔だと思ったら……桜の木の下で眠っていた子ね」
口元に手を当てて彼女――ゆみえ先輩は笑う。
「覚えててくださったんですね」
「うん。覚えてたみたい。あんなところで眠ってる子なんて、あんまりいないでしょ」
ゆったりと喋る。そして、ふわりと笑う。柔らかなフンイキ。顔は色白。目は笑うと線になる。キレイな人だな――。
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