神々しい人

2/7
1183人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
するとその時、こののどかな景色の片隅で、小さなエンジン音が響いた。 人の気配を感じることができ、真琴は藁にもすがるような気持ちで、音の源を探す。 誰か人がいれば、古庄の家のことを訊けるかもしれない。 視界の隅、この道の行く先の方の田んぼで、何か動くものが確認できる。 真琴は涙を拭い、キャリーケースの取っ手を取ると、その“動くもの”に向かって一目散に歩き出した。 近づくにつれて、それは稲狩りをする機械だということに気が付いた。(その農機が、「バインダ」というものだとは、当然真琴は知らない。) 真琴のいる道の方に背を向けて、そのバインダを歩いて押しながら稲刈りをする人物に、真琴は機械の音に負けないよう、大声を張り上げる。 「すみませーん。ちょっとお尋ねしたいんですが!」 しかし、やはり機械の音が大きすぎるのか、それとも初めから人気(ひとけ)などないと思い込んでいるからか、作業をするその人物は一向に気が付いてくれない。 真琴はどんどん遠ざかっていく人物に声をかけるのを諦めて、畑の向こう端からUターンしてくるのを待つことにした。 こんな山間部で農作業をしているのは、年配の人間が多い印象があったが、その人物は細身でスラリと背も高く、比較的若い人みたいだ。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!