神々しい人

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    その若者が畑の中ほどまで戻ってきた時に、 「お仕事中、すみません」 と、もう一度声をかけたら、今度は気づいてくれたらしく、バインダのエンジンを止めてこちらへ歩いてきてくれた。 「この辺に、古庄さんという方のお家は…ありま……せんか…?」 そう尋ねながら真琴は、言葉さえままならなくなった。 マスクを外しながらこちらへ来るその若者に目がくぎ付けになり、息が止まって、身動きもとれなくなる。 農作業をする〝つなぎ姿〟には似つかわしくない、この世のものとは思えないほど完璧で端正な容姿――。 古庄も同じように形容できるかもしれないけれども、この若者は古庄よりも神々しくて、人間ではないみたいだった。 見かけることのないよそ者の真琴を、若者はじっと訝しそうに見つめる。その視線を受けて、真琴は体中の血液が沸騰しそうになった。 「この辺の古庄は、私の家だけだが……あんたは?」 「…っあ、あのっ!…わ、わ、私はっ……」 緊張のあまり、真琴は例のごとくどもってしまう。 「…さては、また和彦の追っかけか?ここ数年は見かけなかったけど…」 と、ますます不審な目でじろじろと眺め回されて身がすくみ、真琴は何も言葉を返せずに口をパクパクさせた。
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