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そんな会話が聞こえてきて、真琴はとっさに〝静香との婚約〟という古庄の過去を思い出してしまう。それに伴って、真琴の鳩尾がキュッと切なく反応した。
「あ……」
そして、奥から出てきた古庄の両親は、土間にたたずむ真琴の姿を見て、言葉をなくす。
きっと両親の頭の中に思い描かれていたのは、容姿端麗な静香だったに違いない…。
そんな風に想像すると、真琴は居場所がないような気持ちにもなったが、このことは初めから想定済みだった。
想定はしていたけれども、静香のことが心に過るだけで、今でも真琴は罪悪感と切なさに苛まれる。
真琴は静香のことを振り払い、勇気を奮い起こして、両親が言葉を発するよりも先に行動を起こした。
「ご挨拶が遅くなってしまって申し訳ありません。賀川真琴と申します。9月に和彦さんと入籍しまして、古庄真琴になりました」
そう言いながら、深々と頭を下げる。
そして、頭を上げるタイミングを計っていると、母親の方の声が響いた。
「ホントに、和彦のお嫁さん!?もう結婚してるのね?んまあ!嬉しいわ!!こんなに可愛い『女の子』で!ねえ?お父さん?」
母親の顔は歓喜に沸き、父親を振り返った。…すると、父親は眉根を寄せて、先ほどの晶と同じように小さく「チェッ」と舌打ちした。
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