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「ご連絡もせず、突然押しかけてしまって、ご迷惑をおかけします」
座卓に着く前に、真琴はきちんと正座をし、再び深々と頭を下げた。
失礼があってはいけないと、真琴の神経はピリピリと研ぎ澄まされている。
「なあに、迷惑なんかじゃないよ!」
「そうよ。そんなに緊張しないで、楽にして」
「いや、そんな風にちょっと緊張してる真琴ちゃんも可愛いなぁ…」
古庄の父親のその声といい、言い回しといい、まるで古庄から言われているように感じて、真琴は思わずドキッっとする。
何と返していいのか分からずに赤くなると、それを見て今度は母親が微笑む。
「あら、赤くなって、照れてるのも可愛いわねぇ?」
「和彦のやつ、こんな可愛い子を一人で来させるなんて、どういうつもりなんだ?」
「そうね。こんなに可愛いのに、何かあったらどうするのよねぇ?」
こんな風に『可愛い』を連発する夫婦の会話に、真琴は口を挟む暇も見つけられない。出会ったばかりなのに、このフレンドリーな感じにも、真琴は戸惑った。
思えば、これまで古庄以外から『可愛い』と言われたことなんて、ほとんど経験がない。
何かにつけて、自分のことを『可愛い』と言う古庄のことを、「変な人だ」と思っていたのだが…。
古庄家はそろって、普通ではない特殊な感性の一族なのだろうか…?
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