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駅から歩き始めて、もうかれこれ1時間が経とうとしていた。森と田んぼと小川に囲まれた、のどかな景色の中で、真琴はただ一人立ちすくむ。
周りには人どころか、人家さえ見えない…。
行く先には小高い山がそびえるばかりで、この先に本当に古庄の実家なんてあるのだろうか…。
違った意味で不安になってきた真琴は、地図を確認するために焦ってスマホを取り出す。
すると、駅では表示されていた地図さえ表示されず、「通信環境の良いところで、再度お試しください」と出てくるばかりだ。
いろいろ試して、確かめてみると、電波のアンテナが「圏外」と出てしまっている。
――……ウソ……!
真琴は愕然として、力が抜け落ちてしまう。そして、それを追いかけるように、胸の鼓動が不穏に乱れ始める。
これでは、地図で現在地を確認することも、先ほど駅の広告にあったタクシーを呼ぶこともできない。
――……このまま、先に行く?それとも、駅に戻る…?
とてつもない不安が一気に押し寄せてきて、涙が真琴の目に滲んできた。
パソコンにスマホ、文明の利器に頼りすぎていると、こんな時にはなす術もない。
「……和彦さん……」
と、心細さのあまり、古庄の名前を呼んでみたけれども、当然古庄が来てくれるはずもない。
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