冒険

7/8
1183人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
駅から歩き始めて、もうかれこれ1時間が経とうとしていた。森と田んぼと小川に囲まれた、のどかな景色の中で、真琴はただ一人立ちすくむ。 周りには人どころか、人家さえ見えない…。 行く先には小高い山がそびえるばかりで、この先に本当に古庄の実家なんてあるのだろうか…。 違った意味で不安になってきた真琴は、地図を確認するために焦ってスマホを取り出す。 すると、駅では表示されていた地図さえ表示されず、「通信環境の良いところで、再度お試しください」と出てくるばかりだ。 いろいろ試して、確かめてみると、電波のアンテナが「圏外」と出てしまっている。 ――……ウソ……! 真琴は愕然として、力が抜け落ちてしまう。そして、それを追いかけるように、胸の鼓動が不穏に乱れ始める。 これでは、地図で現在地を確認することも、先ほど駅の広告にあったタクシーを呼ぶこともできない。 ――……このまま、先に行く?それとも、駅に戻る…? とてつもない不安が一気に押し寄せてきて、涙が真琴の目に滲んできた。 パソコンにスマホ、文明の利器に頼りすぎていると、こんな時にはなす術もない。 「……和彦さん……」 と、心細さのあまり、古庄の名前を呼んでみたけれども、当然古庄が来てくれるはずもない。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!