稲刈り

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真琴の関わってきた中で東大に入れる人間なんて、高校の同級生はおろか、教え子の中でも数人しかいない。晶が、想像もつかないような世界にいた人間だと知って、真琴は絶句する。 そう言えば、昨日、キャリアがどうの…という母親との会話があったのは、そういうことだったのだ。 「年齢も、見た目も、頭脳も…、どれも姉貴に勝てるものがないわけだから、俺は結局姉貴には頭が上がらないんだ…」 古庄はそう言って、自嘲的に笑みを浮かべた。真琴はそれに同意も出来ずに、少し困ったように微笑みを返す。 確かに、これだけ完璧に見える古庄なのに、それを鼻にかけたり思い上がっていないのは、身近に晶という存在があったからかもしれない。 そんな晶も、華々しい経歴を捨てて田舎に引っ込んでしまったのは、挫折をしたり失敗をしたり、何か理由があったのかもしれない…。 真琴が、自分たち姉弟とはまた違った古庄家の姉弟の在り様に思いを馳せていた時、晶から声をかけられた。 「おーい、和彦!お前はバインダで稲を刈ってくれ。真琴ちゃんは私と一緒に、細かいところの手刈りと、その後、かけ干しの作業を手伝ってもらえるかな」 「はーい!」 待ってましたとばかりに、真琴はすっ飛んで行く。 古庄は手慣れた感じでバインダのエンジンをかけ、稲を刈り始めた。
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