奇僻

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 だが今思えばそれは、自分が弱者としての立場を築き上げ、それを妻が(いた)わってくれていただけに過ぎない。  それに十年も気づけずに、甘えていた分のツケが今のこの生活なのだ。  自分よりも辛い病に侵され、今も闘病を続けている者など数知れない。  寛解(かんかい)しても尚、被害者面したまま他者の同情に(すが)る、そんな浅墓な考えの自分が攻撃されるのは当たり前なのだ。  環境が変われば尚更。自分という者の本質が明らかになり、それを受容するのに年月と多大な労力が必要とされ、私はそれに悩まされ続ける。  なるべく考えないようにと眠りこけてみても、追跡ミサイルのように夢の中まで現実は追ってくる。  こうなっては逃げ道がない。  その度に私は散歩途中の土手から川面(かわも)をじっと見つめては馬鹿な妄想に(ふけ)り、息を止めてみては()せ返り、時にはひっそりと涙を流す。  こんな可笑しな姿を見せられるのは彼女の前だけなのだ。 「ワンッ、ワンッ!」  土手を爽快にランニングする彼女に引っ張られながら、私は億劫(おっくう)そうに走る。  その陰と陽の滑稽(こっけい)さといったら、ピエロ顔負けであろう。  そう意図せずとも周囲の者がクスッと笑い出すのは、私の格好のせいかもしれないが。  嘲笑(ちょうしょう)も笑いの内と強がってみせる。そうしたところで安価な自尊心など少しも守れやしない。それどころか余計に、砕け散った破片が胸の奥に突き刺さって痛む。  それの繰り返し。  太陽はやがて沈んで朝日が顔を出す。犬の散歩も、義母の小言も、妻の冷たい視線も。  何を願おうとも明日は今日になり、今日は昨日になる。全てはデジャブ化し、ループする毎日に私の心は破壊され尽くす。
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