彗星の奇蹟

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秋田の実家周辺は雨が降れば道がぬかるみ、冬になると家の2階に届くほどの雪が積もる。 お洒落などできる筈もなく、また、似合わない場所だった。 東京の生活は快適だ。雪は滅多に降らないし交通機関が網の目のように走っていて運行本数も多い。 なるべく歩かなくて良いようにどこもかしこも整備されている。 私は日々の生活を謳歌していた。 「ふぇっ……くしゅっ!」 思わぬ寒さにくしゃみが出た。 季節は11月。街路樹が葉を落とし風に煽られてカサカサと音を立てながら道端に集まる。 この季節は嫌いだ。 街の緑が失われ日光は日に日に力を弱める。空気が乾燥して肌がカサカサになった。 仕事を終えれば外は真っ暗。一日が短く感じられた。 立て続けにくしゃみが出る。 ……しまった。薄着だった。 部屋は空調が効かせてあるし、雪国生まれで寒さに強いという変なプライドがあった。 ………離れて6年も経っていればそんなもの何の役にも立たないのに……… 油断した。 引き返す時間は無い。 仕方ないと諦めて電車に乗った。
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