彗星の奇蹟

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田舎の両親同様、深い雪の中で春を待つフキノトウのようにこぢんまりとした倹(つま)しい生活が似合っているのだ。 私はフラフラになりながら部屋に入るとやっとの思いで服を脱ぎ、化粧を落として倒れるようにベッドに潜り込んだ。 暑い。 暑くて寒い。 汗をかきながら掛け布団を引き寄せる。 悪い夢ばかり見ていた。 毎回違う夢なのに何故か最後には独りぼっち。 溜め息をついて布団から這い出してトイレに立った。 蛇口からコップに水を受けて飲み干す。 傍らのお弁当に目が行った。 母の手料理が浮かぶ。 思わず涙ぐんで、お弁当を冷蔵庫に投げ込むと氷枕を取り出して再びベッドに入った。 …………淋しい……… こんなときは人間弱気になるものだ。私は訳もなくすすり泣き、人恋しさに身悶えた。
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