彗星の奇蹟

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暖かくて大きな手が触れた。 はじめはおっかなびっくり。 やがて私の熱に気が付くと確認するかのように上腕を辿り、頬にそっと触れて額へとあてがわれた。 私は朦朧とした意識の中で、父が来てくれたのだと思った。 「……んん……お父さん………」 手が静かに私の顔を確認するかのように蠢いた。 氷枕に気付いた。そしてゆっくりと移動して私の頭を撫でる。 気持ちが良い。 ただ撫でているだけの掌から優しい心が伝わってくる。 私は穏やかな心地になって、淋しさを忘れて眠りに落ちていった。 翌朝にはまだ熱があったので仕事はお休みを貰った。 咳と怠さが抜けなかったけれど食欲があったので昨夜のお弁当を温めて食べる。 「………そう言えば昨夜……」 子供の頃は父によく頭を撫でられた。 熱に浮かされて思い出していたのかも知れない。 食事を終えると、私は布団に戻って一日中ゴロゴロして過ごした。 何度となく寝たり目覚めたりを繰り返す。
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