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「なにか、嫌な事でもあったのか?」
「……あった…かも」
……想像の中でだけど。
ユキくんは僕の頭を優しくなでてから、両手で僕のほっぺたをはさんで、ワシャワシャ!と勢いよく揉んだ。
「礼音にしょんぼり顔は似合わないぞ」
最後に軽くペシン!と叩かれた。
「もう!痛いよユキくん」
「それだけ大きな声が出せるなら、大丈夫だな」
パン!と勢いよく僕の肩を叩くように抱いて、ユキくんはまた歩き始めた。
こんな子供の頃と変わらないやり取りが、僕にはすごく嬉しい。
「ユキくん、僕より大切な友だちが出来ても……僕には紹介しないでね」
「……逆に言うと、礼音より大切じゃない友だちは全員紹介しなきゃいけないってことか?」
「え、いや、そういうわけじゃないけど…」
それじゃ僕が独占欲の固まりみたいだ。
ユキくんが僕の肩に置いた手にギュッギュッと力を込めた。
「今のとこ礼音以上に大切な人間なんていないし、これからも出来そうな気がしないんだ。だから、礼音が知らない俺の知人のことなんか気にしなくていいよ。礼音に会わせるほどの奴じゃないってだけだ」
『僕より大切な友だちを僕に紹介しないで』って言っただけなのに、ユキくんには僕が何を思ったのかまるっきり筒抜けみたいだ。
「ユキくんにとって…僕が一番ってこと?」
ユキくんのシャツの裾をギュッと握って聞いた。
「もちろん。礼音が一番だ」
ユキくんの言葉に勝手にニパーッと顔が笑ってしまう。
「僕もっっ……!」
『僕もユキくんが一番大切だよ!』そう言おうと思ったのに、言葉が詰まった。
ユキくんが僕をニコニコ顔で見下ろしてる。
「……僕も…だよ」
ちょっと顔を伏せて言ったから、ユキくんには僕がはにかんでるように見えたかもしれない。
僕だってユキくんが一番大切で大好きだって思ってるんだ。
なのに一瞬。
たった一度しか会った事の無い、ワイルドで端正な顔が僕の脳裏をよぎったのはどうしてなんだろう。
そして、今、まるでユキくんに嘘をついてしまったような、もうしわけない気持ちになってるのはどうしてなんだろう。
……胸が……苦しい。
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