102人が本棚に入れています
本棚に追加
橋の歩道でしおりを手に持って川を見つめる。
僕はこの橋の上から見る風景が大好きだ。
告白……する……しない。
手の中でしおりを表裏とクルクル回す。
高校で同じクラスの中村さんにもらったこのしおり…。
中村さんはちょっと小柄で大人しいけど、気の強いところのある女の子。
僕が図書館で借りた本に、しおり代わりにノートを破って挟もうとしていたらこれをくれた。
「私、可愛い紙が大好きで趣味で色々作ってるんだけど、自分じゃそんなにたくさん使いきれないから、良かったら久多見(くたみ)くん使って」
ずっとちょっといいなって思ってた子に優しくされて、しおりまでプレゼントされて…。
午後の図書館で僕は中村さんに恋をした。
けどそれからも、他の女子と同じように何か用事があって声をかけることはできても、個人的な会話をすることはほとんどなかった。
でも、僕は一歩前進したい。
しおりを見ずにクルクルとまわして……。
表がでたら告白をする。裏だったら……しない。
パッと目の前にしおりを掲げた。
……表……だけど……僕の大好きなこの河から見たら、裏……だよね。
告白……し、し、し…
「あっ!」
強い風が吹いて、僕の手からしおりをさらっていった。
慌てて手を伸ばし、橋から身を乗り出してそのしおりを取ろうとした、その時…。
「おい!何やってんだ!」
グイッと肩を掴まれた。
そして、ぐるっと視界が回転する。
「死にたいのか」
低い声が降りてきて、僕の視界は広い胸にふさがれていた。
「あ…いや……。僕はしおりを…」
「それは、おまえの命より大切なものなのか?」
背中に回されてる腕に力が込もり、僕はたくましい胸にギュッと強く抱きしめられていた。
「あ……いや…」
僕を抱きしめていた腕の力がそっと弱められる。
見上げると、そこにはワイルドで端正な顔。
ちょっと長めの髪を無造作に結んで、シンプルなファッションがおしゃれに見える男の人。
ドキンドキン!
あれ…。
あ、橋から身を乗り出して、危険だったから、そのドキドキが今頃…。
その男の人は、僕の髪をくしゃっと混ぜた。
「気をつけろよ。お前の代わりは、他にいないんだからな。」
ポンと僕の背中を一つ叩いて、軽やかな足取りでその人は立ち去って行った。
最初のコメントを投稿しよう!