骨付きもも肉

2/2
前へ
/2ページ
次へ
十代の足、幼さと大人っぽさを混ぜ合わせた羽化の時。 まだ無駄毛の処理を覚えていない足にはうっすらと産毛が生えている。 そこに舌を這わすと何とも言えぬ抵抗感が私を惑わせる。 カミソリで剃っている足もまた良い、時折チクリと舌を刺すような刺激が滑らかな肌とアンマッチし、ハンバーガーに挟まっているピクルスのような肉の味を引き立たせる役目をしている。 肉八に対して脂肪二の黄金比、そっと舌先で肌を押し込むと強く押し返される抵抗感を楽しむことが出来る。 水を弾く瑞々しさ、鮮度こそ志向と言わんばかりの張りのある肌が私の心を揺さぶる。 二十代の足、体育の授業から縁が遠のき自ら運動をしないと筋肉が衰える年頃。 美に対して貪欲な足からは毛が抜き去られ、舌に対して刺激が減少してしまっている。 しかし、それを補って余りあるのが香りである。 十代の足が草原の若草の匂いだとすると、二十代のそれは満開の花畑である。 甘い蜜の香りが鼻腔を擽り食欲を沸き立たせる。 こぼれ落ちる花の蜜をすくい取るように舌を這わせると滑らかな柔肌と甘い香りで脳が蕩けるようだ。 肉と脂肪が五対五の比率で形成された足を甘噛みすると、殆ど抵抗ない表面の奥にしっかりとした肉を歯に感じさせてくれる。 三十代の足、十代の鮮度や二十代の旬から離れてしまって久しい足は、少し物悲しさを漂わせる。 肉三に対して脂肪七の足からは舌を押し返すほどの抵抗感は無く、その肌は舌の水分を奪い去る吸い取り紙のようだ。 しかし侮るなかれ、鮮度や旬にない味それは熟成だ。 熟成室で何年も寝かされたスモークチーズのような、濃厚な味と匂いを楽しむことが出来る。 短い付き合いでは出すことの出来ないその匠の味は、年を追う毎に深みを増していく。 今後も私の舌を楽しませてくれるだろう。 「ありがとう妻よ」
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加