1章)あの夏の記憶

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高校一年の夏。 僕はこのクラスへとやって来た。 「今日はお前らに転校生を紹介するぞ」 教壇に立った先生が大声でそう言うと、廊下まで漏れていた喧騒がぴたりと止んだ。 静かになったのを確認すると、廊下に立っている僕を呼ぶ。 「入ってきていいぞー」 本来ならここで、初めて出会う同世代の人間に多少の躊躇いを感じるものだが、こんなのはもう慣れっこだ。緊張なんてしない。どうせこいつらともすぐ別れることになるのだから。 そう自分に言い聞かせてドアに手をかけると、何か違和感を感じた。 なんだ?この腕を通して伝わってくる重量感は。これを開けたら取り返しのつかないことになる気がする。 まさか、びびってるのか?そんなわけない。いつも通りに開ければいいだけだ。 よし。 言いようのない不安を頭の中から追い出して勢いよくドアを開ける。 ドン。 頭にずっしりとした確かな重量感を感じると共に視界が真っ白になる。 予想外の事態に気が動転していると、教室が弾けたように爆笑した。 「1―Bへようこそ!これからもよろしくぅー」 「結構イケメンじゃん!都会から来たのー?」 あまりの展開に思考がついていけない。頭に降ってきた物体を指でつまみ上げると、それはチョークの粉がたっぷり含まれた黒板消しだった。 「はっはっは。まあ、転校生くん許してやってくれ。これはこいつらなりの歓迎なのさ」 先生が豪快な笑い声をあげて言った。 正直、腸が煮えくり返りそうだったが、ここは僕も大人の対応を見せる。 「いえ、大丈夫です」 「えーと、じゃあ改めて……今日からお前らのクラスの一員になる星野敏明くんだ。敏明くんのお父さんは仕事の関係上、各地を転々としててな。まあ、短い付き合いかもしれんが仲良くしてやってくれ」 粉を払いつつ、話し終えたのを見計らって僕も小さく頭を下げる。 「とりあえず、そこの空いてる席に座ってくれ」
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