3章)あれから二十年――

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3章)あれから二十年――

「変わらないなぁ……」 久しぶりに訪れた故郷は長い歳月を経ても、あの頃の記憶を閉じ込めていた。 突き抜けるような青空。夏の訪れを告げる蝉の囁き。どこまでも続く田園風景。景色を眺めながら、ひとり、遠い記憶に思いを馳せる。 「風が気持ちいい」 風が夏の匂いを運んで、私の髪をそっと撫でた。肩から浮いた髪の毛が寂しそうに宙を舞う。 「おーい、レナ。こんなところにいたのか。探したぞ」 不意に背後から男の声がして、私はおもむろに振り向く。男はここまで走ってきたようで、苦しそうに息を切らしている。 「一人で先走りやがって。また明日みんなでここに来るんだから、なにも今日来ることはなかったんじゃないか?」 「だってあの頃を思い出したら、いてもたってもいられなくて」 そう、私たちの大切な仲間が死んでしまったあの日から二十年。私たちはその日の夜、クラスで肝試し大会を開いた。計画は万全でみんな大いに盛り上がっていた。あんなことが起きるまでは……。 あの日、肝試しの最中にとある女子生徒が誤って蝋燭の火を床に落としてしまう。それが悲劇の始まりだった。女子生徒はそのことに気付かず、ルートを外れ、校舎の一室に閉じ籠る。火はあっという間に燃え広がり、校舎全体を包み込む。 ほとんどの生徒は異常な事態を察知して外に避難したが、ただ一人その女子生徒だけは戻ってこなかった。 それを知った一人の男子生徒は仲間の制止を振り払い、火の海と化した校舎に戻っていった。 「だからあの日、あの場所で彼を殺してしまったのは私のせい」
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