1:真四角な椅子

2/5
前へ
/213ページ
次へ
駅ビルの7階に本屋がある。三分の二がその本屋で、残りは雑貨や文房具を売ってる店と喫茶店。 俺は仕事帰りにその本屋に行き、よく本を買う。といっても、実用書だとかベストセラーな新書とかを買うわけではない。そういうのは古本屋へ買いに行きますので。 俺がそこで買うのは、主に漫画とかラノベだ。あ、でもラノベはたまにかな。メインはBLものだし。 中学のときからそういうのを読んでいたけど、大学生になるまで誰にも言えなかった。変な目で見られるのはわかっていたし、やっぱなんか恥ずかしいんだよな。 高校のときは買うのも恥ずかしかった。だって表紙があからさまだったし。通販で買いたかったけど、届いた本は母親が先に見てしまう。部屋に置いてあるんだからばれてはいるんだけど、なんか、ねえ? 今は一人暮らしだし、社会人のスルースキルというか、何食わぬ顔で無表情にレジへ持っていけます。レジのお姉さんがたまににやけるのに、仲間か、と微笑んだり出来ますからね。 そんなことを考えながら、買った本を手にエスカレーター横に並んでいる真四角な椅子に向かう。空いていた赤い椅子に座り、さっそく本に目を通す。 しばらくして、俺の前に人が立ったのに気づいて顔を上げた。 黒髪に端正な顔立ちの男子高校生が、無表情のまま俺を見下ろしている。 うむ。今日もかっこいいね紺野くん。
/213ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2175人が本棚に入れています
本棚に追加