4:十代と二十代

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仕事上がりに給湯室へ行き、使っていたマイマグカップを洗う。紙コップも用意されているのだが、同僚のうち外回りなどに出ないものは比較的マイカップを持ち込んでいる。 俺のマグカップは他のより少し大きめで、外は黒だが中は水色。で、内側に黒猫が描かれている。駅ビルの雑貨屋で見つけて、気がつけば買っていた。家にはすでにマグカップがあったので、こうして会社に持ってきたわけである。 洗ったマグカップを所定の棚へしまい、鞄を取りにオフィスへ戻ろうとしたら部長がやって来た。見つかる前にと給湯室に引き返し、様子を伺う。 別に部長を嫌っているわけではない。 上司の中では好印象を部下に与えていると思う。みんなからも慕われているほうだ。 五十代にしては若い。加齢臭ではなく香水をほんのり漂わせ、女子社員の肩に触れたり下世話な勘繰りもしない。 顔は…まあかっこよくはない。背も低いほうだろう。体格はがっちりしていて、髪は少し寂しくなっている。普段は笑みを浮かべているが、今は無表情。 誰もいないのに笑っていたらそれはそれで怖いけどな。 どうやら喫煙所に向かっているようだ。ほっと息を吐き、給湯室の壁に背中を預ける。 少し時間を空けてから、給湯室を出てこっそり喫煙所へ行く。遠目に見える部長は煙草を吹かしてぼんやりしているようだった。 なんだ一人かと肩を落とし、今度こそオフィスに戻った。 鞄を横掛けにして会社を出て身を震わせる。まだ誰もコートなんて着ていないが、正直俺は着たい。なんでみんな平気なのか不思議で仕方ないのだが、昔から俺は他の人より着ぶくれしていた。 寒い。どうせ寒がりだよとふてくされたまま、駅へと向かう。明日はヒートテックの下着にしよう。絶対寒いって。
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