1:真四角な椅子

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紺野くんはそのまま突っ立っていて、俺はそんな紺野くんから視線を外して辺りを見回した。 今いるのは上りエスカレーターの横で、下りエスカレーターの方に三つほど椅子が空いていたので立ち上がる。 場所を移し白い椅子に座った俺の横にある赤い椅子を、紺野くんは足で蹴るようにして動かす。 俺の座っている白い椅子と、赤い椅子の距離が近くなる。それに一つ頷いてから、紺野くんはそこに座った。 お互い少し体が相手に向くよう座っている。 紺野くんは背負っていたリュックを足の間に置いて、太ももに肘をつき組んだ手の甲に額を押しつけた。 俺は手にした本を再び開き、素知らぬ顔でボソボソ話し出す。 「俺、元々受けに感情移入するほうだったんだけど。今日さ、喫煙所に部長がいて、営業の人と難しい顔で話してるの見かけてね」 ちらりと紺野くんの様子を見たが微動だにしていない。俺は再び本へ視線を落とす。 「部長に迫られたらヤバいなって...俺もしかして腐男子じゃなくホモかもしれないって考えだして。でもよくよく冷静になったら、部長に迫られてんのそこにいた営業の人でね。もちろん俺の脳内でのことなんだけど。けどこう、受けを自分に置き換えて考えるのに抵抗がなかったのがさー。...俺頭ヤバいかな?」
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