2:通勤電車

2/5
前へ
/213ページ
次へ
通勤電車の中は身動きできない程ではないが、腕や背中に人が触れる程度には混んでいる。高校生の姿はほとんどなく、二十歳前後の人が多い。この沿線に誰もが知る大学があるせいだろう。 俺の住んでいるアパートも、学生向けのものだった。おかげで曜日関係なしに騒がしいときはひどい。本当にひどい。 中も外も騒がしいのはもちろん、翌日の朝は通路に吐瀉物が散乱しているときもあった。 さすがにそれは契約主へ連絡を取っておいたが、翌日に張り紙の注意がエントランスの掲示板に張られただけだった。掃除は誰がしたのかはわからないままだ。 電車に揺られる中、スマフォの小説サイトをチェックする。ブクマしている作品が更新されていればそれを読み、されていなければニュースを読む。 吊革を掴んだ反対の手で、スマフォを持ち上げて見る癖は早めにつけた。冤罪は怖い。シャレにならん。 画面越しの世界だと思っていた痴漢は、実は身近なものだった。 俺の隣にいた女性がやけに動くなと、不審に思い視線を向けたらがっつりと胸を掴まれていたのには驚いた。 動揺のあまり視線を泳がせてしまったが、声をかけるべきか手を取り押さえるべきか悩み、実は恋人同士のプレイではないかと疑った。いや、そうであってくれと願った。 結局、女性はその手を引きはがそうともぞもぞ動き頑張っていたし、泣いてしまいそうな雰囲気だったので、どうかしましたかと声をかけた。 胸を掴んでいた手はすっと離れ、女性は次の駅で降りて行ったが怖かった。素知らぬ顔でスマフォへ視線を落としたが、こっちが泣きそうだった。 周囲からちらほらくる視線も辛かったが、女性も痴漢も声を聞くことはなかったし。お礼を求めての行動ではなかったのだが、無言。無言って…。 もやもやし、痴漢被害を調べたら冤罪についての記事が目につき恐怖を感じてしまった。 それからは両手の位置が一目でわかるようにした。
/213ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2174人が本棚に入れています
本棚に追加