57人が本棚に入れています
本棚に追加
第四話:村娘、交渉する
「ははっ……。そうだよな……、どうせ俺のことなんて、誰も知らないよな…………」
王様は乾いた笑いを漏らして、虚ろな目で近くの壁に『の』の字を書き始めた。
「ああっ! 我が王、お気を確かに! 大丈夫です! 国民はみな王のことを知っております! この村娘が知らなかっただけです!」
「え、わたしだけ知らないってことはないと思うけど。村でも王都でも、王様の名前なんて一切聞いたことなかったし。アリスの名前なら、いくらでも耳にしたことはあったけど」
「あなたは少し黙っていなさいッ!!」
「あっ、はい」
アリスに恐ろしい剣幕で怒鳴られ、わたしは素直に口をつぐむことにした。
しばらくボーっと待っていると、王様が再びわたしの前に立った。どうやらアリスの必死のフォローで立ち直ったらしい。
王様は「ごほんごほん」と何度か咳払いをして、わたしに訊ねる。
「ミナリー・ミナーセだったな?」
「あ、うん」
普通に話しかけられ、わたしはついつい普通に返事をしてしまった。
そのおかげでアリスから思いっきり物凄く睨まれる。
最初のコメントを投稿しよう!