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「あー……。ほんと、やってらんないよ……」
わたしは手の上にある六枚の銀貨を見て溜息を吐いた。
王都へ出稼ぎに行った帰り道、わたしの手持ちのお金はこれだけしかない。
行きはカゴいっぱいに野菜を背負っていたはずなのに、カゴまで売って得たのがこれっぽっちだ。
シュテイン王国の通貨価値で言うと、銀貨一枚で十ウェン。
五ウェンあればライ麦の安価なパンが一個買えるから、銀貨六枚でパンは十二個買える。
一家族の一日分の食費程度にしかならない。
「これ、野菜売らずにそのまま食べた方が良かったんじゃないの……?」
銀貨六枚じゃ、村も我が家も景気が良くなりはしない。
焼け石に水にしかならないだろう。
だからいっそ、くすねてやろうかなと考えていた時だった。
『お困りですかな、お嬢ちゃん?』
どこかから、声が聞こえる。咄嗟に気配を感じた方に振り向くも、誰も居ない。
風に揺られたライ麦がカサカサと音を立てているだけだった。
『こっちじゃ、お嬢ちゃん』
また声が聞こえた。振り返ると、そこには紺色のローブに身を隠した誰かが居る。
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