第一話:村娘、悪の道に落ちる

2/4
前へ
/219ページ
次へ
「あー……。ほんと、やってらんないよ……」  わたしは手の上にある六枚の銀貨を見て溜息を吐いた。  王都へ出稼ぎに行った帰り道、わたしの手持ちのお金はこれだけしかない。  行きはカゴいっぱいに野菜を背負っていたはずなのに、カゴまで売って得たのがこれっぽっちだ。  シュテイン王国の通貨価値で言うと、銀貨一枚で十ウェン。  五ウェンあればライ麦の安価なパンが一個買えるから、銀貨六枚でパンは十二個買える。  一家族の一日分の食費程度にしかならない。 「これ、野菜売らずにそのまま食べた方が良かったんじゃないの……?」  銀貨六枚じゃ、村も我が家も景気が良くなりはしない。  焼け石に水にしかならないだろう。  だからいっそ、くすねてやろうかなと考えていた時だった。 『お困りですかな、お嬢ちゃん?』  どこかから、声が聞こえる。咄嗟に気配を感じた方に振り向くも、誰も居ない。  風に揺られたライ麦がカサカサと音を立てているだけだった。 『こっちじゃ、お嬢ちゃん』  また声が聞こえた。振り返ると、そこには紺色のローブに身を隠した誰かが居る。
/219ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加