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秋の少しばかり張り詰めた空気が、気持ちよい午後のことだった。
俺…谷口海斗は、仕事先の事務所で、ここの主である、速水の叔父さんから、書類の整理を指示されて、黙々と、仕事をしていたんだ。
速水の叔父さんっていうのは、俺の親父の親友で、小説家の吉水千秋先生の旦那さん。ちなみに、以前は、親父と同じ山河書房に勤めていた人だ。
そうそう、ちなみに、家のおふくろも、出版社に勤めてる。こっちは、丸岡書店。
親父とおふくろは、吉水先生の担当になったことで知り合って、結婚したらしい。
まあ、その関係で、俺は、小さな頃から、吉水先生の自宅やら事務所に、頻繁に顔を出していたから、大学入ってアルバイトに雇ってもらったんだ。
叔父さんには、かなり無理言って、大学卒業してから、事務所の正社員として働かせてもらってる。
まあ、個人事務所なんで、正社員の肩書きは、俺一人なんだけどさ。
さて、話を戻そう。俺は、書類の整理に目処がたったんで、ちょっと休憩をしようと、事務所の中にあるキッチンで、珈琲を煎れていた。
携帯が、ポケットの中で、ブルブルと震えているのに気が付いた。
「…ん?…笹森?」
それは、ゼミで一緒だった笹森香澄からのメールだった。
【突然のメールで、ごめん。海斗に、どうしても話したいことがあるんだ。時間が取れるようなら、会ってくれないかな。返事を待ってます。】
俺に話ってなんだ?
まったく、想像のつかなかった俺は、首を傾げていた。
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