蜜月の新生活

7/13
前へ
/397ページ
次へ
人権・男女共同参画課。まあ、普通、ここに来る人ってのは、人権団体の人とか、会社の総務や組合の人なんかが多い。後は、虐待されてる人を助けようという心ある人とか、地域の顔役の人とか…。 そりゃそうだろう、組織であろうが、個人であろうが、そういうことを取り扱ってる部署なんだから。 そして、性的マイノリティである、真澄のような立場の人間もやって来る。 俺は、事前申請をして、今日、ここへ来ることに決まっていた。真澄を伴ってだ。 引っ越し予定のマンションに、俺の住民票も移してあるし、必要な書類は、宮武先生にチェックも入れてもらって、ちゃんと用意してある。 「パートナーシップ宣誓の申請ですね。書類をチェックさせてもらいますね。」 区役所の職員は、淡々と、手続きを進めていく。 法の元に平等…それが、人権の基本。誰もが公平な生き方ができるのが理想。だけど、現実は、そうじゃない。そこに、たとえ、一部分であっても、風穴を開けてくれた公的機関は、すごいと思うよ。 ひそひそとした話し声が、漏れてくる。 「…あの子達………みたいよ。」 「ええっ…どう見ても………よね。…見た目じゃ………ないわよね。」 俺達に聞こえないように、こそこそと話しているのだけれど、耳のいい俺には、しっかり聞こえていた。 俺は、前を向いたまま、ぎゅっと真澄の手を握った。真澄は、一瞬、俺の顔を見上げたけれど、小さく頷いて、同じ様に前を向いた。 好奇の目…。真澄は、ずっとこんなのに晒され続けてきたんだよな。 これからは、一人じゃない。俺が守っていく。 「…こちらが、お二人の宣誓書の控えになります。 宣誓書の保管は、こちらできちんとさせていただきますが、期間は10年となっておりますので、ご注意下さい。 …後、もしものことですが、期間内に、パートナー解消をされる場合は、書類破棄の手続きが必要ですので、ご連絡を下さい。」 「ありがとうございました。」 宣誓書の控えを大事にしまって、俺達は、そこを後にした。 「新しいマンション、寄って行こうか。」 「うん。見たい。」 俺達の新しい生活が待っているんだから、笑って、一歩を踏み出すんだ。
/397ページ

最初のコメントを投稿しよう!

103人が本棚に入れています
本棚に追加