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人権・男女共同参画課。まあ、普通、ここに来る人ってのは、人権団体の人とか、会社の総務や組合の人なんかが多い。後は、虐待されてる人を助けようという心ある人とか、地域の顔役の人とか…。
そりゃそうだろう、組織であろうが、個人であろうが、そういうことを取り扱ってる部署なんだから。
そして、性的マイノリティである、真澄のような立場の人間もやって来る。
俺は、事前申請をして、今日、ここへ来ることに決まっていた。真澄を伴ってだ。
引っ越し予定のマンションに、俺の住民票も移してあるし、必要な書類は、宮武先生にチェックも入れてもらって、ちゃんと用意してある。
「パートナーシップ宣誓の申請ですね。書類をチェックさせてもらいますね。」
区役所の職員は、淡々と、手続きを進めていく。
法の元に平等…それが、人権の基本。誰もが公平な生き方ができるのが理想。だけど、現実は、そうじゃない。そこに、たとえ、一部分であっても、風穴を開けてくれた公的機関は、すごいと思うよ。
ひそひそとした話し声が、漏れてくる。
「…あの子達………みたいよ。」
「ええっ…どう見ても………よね。…見た目じゃ………ないわよね。」
俺達に聞こえないように、こそこそと話しているのだけれど、耳のいい俺には、しっかり聞こえていた。
俺は、前を向いたまま、ぎゅっと真澄の手を握った。真澄は、一瞬、俺の顔を見上げたけれど、小さく頷いて、同じ様に前を向いた。
好奇の目…。真澄は、ずっとこんなのに晒され続けてきたんだよな。
これからは、一人じゃない。俺が守っていく。
「…こちらが、お二人の宣誓書の控えになります。
宣誓書の保管は、こちらできちんとさせていただきますが、期間は10年となっておりますので、ご注意下さい。
…後、もしものことですが、期間内に、パートナー解消をされる場合は、書類破棄の手続きが必要ですので、ご連絡を下さい。」
「ありがとうございました。」
宣誓書の控えを大事にしまって、俺達は、そこを後にした。
「新しいマンション、寄って行こうか。」
「うん。見たい。」
俺達の新しい生活が待っているんだから、笑って、一歩を踏み出すんだ。
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