金木犀が香る街角で…

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あれから半年…。 俺は、あいかわらず、速水の叔父さんの仕切っている千秋さんの事務所で働いていた。 変わったことと言えば、ここに真澄も来るようになったことだ。 引っ越しから、1ヶ月ほどして真澄は、お世話になっていたバーラウンジで、また仕事をしたいと言いだした。でも俺は、それが嫌だったんだ。 「…建築事務所で働いてた経験もあるんだから、そういうところに再就職しろよ。もう、お母さんの世話だって四六時中やらなくてよくなったんだし。」 「でも…そんな簡単に、仕事先見付からないし…。海斗にだけ、仕事させるなんて出来ない。」 その度に、言いあいとまではいかないけど、話が平行線になって、気まずくて、話が途中で終わるというのを繰り返していた。 そんな俺達の悩みに手を伸ばして、助けてくれたのは、やっぱり速水の叔父さんだった。 「真澄さんも、ここで働くのはどうだ。」 「えっ、でも…。」 「ひとりくらい増えたって、どうってことはないぞ。前は、和樹と洋祐、ふたりもバイト入れてたしな。」 「いや、バイトと正社員は違いますよ。」 「違わないよ。バイトであろうとなかろうと、仕事の量も、求めている質も、常にMAXだ。そのスタンスは、今も昔も変わらんよ。」 「…だけど。」 「不服なのか?」 「そんなんじゃないです…むしろ、感謝したいくらいです。」 「なら、決まりだ。」 良い話だとは思う。真澄も、本が好きだし、なにより千秋さんのファンのひとりだ。…でも。 「何か言いたそうだな、海斗。当ててやろうか。こんなに、甘えてばかりじゃ、駄目だって思ってんだろう。」 ああ、本当に叔父さんの推理能力の高さは、半端ないよ…。図星当てられて、何も言えない。
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