金木犀が香る街角で…

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「そこに、座って。」 速水さんは、私に、席を勧めてから珈琲を煎れ始めた。しばらくすると、とても芳ばしい薫りが漂い始める。 「…待たせたな。」 そう言って、珈琲を勧めてくれた。 「いただきます。…美味しい。」 一口飲んだら、口の中にふんわりと苦味と薫りが、広がった。 速水さんは、そんな私を見て、ニコリと笑った。 「君は、何故、仕事をしたいと思ったんだ。海斗の稼ぎだけで、生活していけるだろう。それだけのものは、出してるつもりだが。」 「海斗に養ってもらおうとは思っていません。だって、私は、海斗と対等だと思っているからです。 私は、女の子になるための治療で、沢山の時間が必要でした。その間は、仕事したくても出来なかった。でも、それも、もう一段落着いたし、何か出来ることをしたいって思って…。」 「なら、なんでも出来るな。…それなのに、何故、前の仕事をしようと思った?手っ取り早いからか?」 「それもあります。」 「それもあるって、他にもあるのか?」 「実は、お店に無理を言って、ずっと、お休みさせてもらっていたから…。」 「まだ、辞めてないのか?」 私は、小さく頷いた。 「海斗には、言ってないんです。お店は、辞めたんじゃなくて、本当は、休ませてもらってる形になってるんです。」 「どうして?」 「私は、山梨へ行く前に、きちんと辞めるつもりで、オーナーに話したんです。そうしたら、いつでも、戻って来れるように、長期のお休みってことにしておいてあげるって…。 オーナーは、和彦叔父さんのお友達だから、私の事情は全部理解してくれていたし、お店に勤め始めた頃は、お母さんのこともあって、かなり無理も言ったから…。 私は、山梨のことが一段落着いたら、恩返ししたいって思っていたんです。」 「なるほどな。簡単に言えば、お礼奉公をしたいわけか。でもな、そんなことしてたら、いつまで経っても、ホステスの仕事辞められないぞ。 君が、また働いてくれるとなると、向こうも期待するし、期待されたら辞められなくなる。オーナーには、申し訳ないが、君を手離してもらわなくちゃ、いつまで経っても他の仕事を出来ないよ。」 速水さんは、ポーカーフェイスで、淡々としてるけど、話してくれてる言葉から、私は、温かさを感じていた。
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