金木犀が香る街角で…

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千秋さんの事務所は、個人事務所だ。お屋敷の一部を改装して事務所にしている。 ここへ朝来ると、千秋さんのスケジュールをまずチェックする。 作家は、執筆活動だけしてればいいのだと思っていたのだが、それだけではないらしくて、結構、バタバタしていた。 執筆中は、声も掛けられないくらいに、集中している。そんな千秋さんに、ストップを掛けられるのは、速水さんと息子の光輝さんだけだ。 海斗は、俺には、まだ千秋さんの止め時のタイミングが掴めないんだって笑ってた。 執筆してないときでも、何かと忙しそうだ。 細かい打ち合わせとか段取りは、すべて速水さんがやっているとはいえ、千秋さん自身も、速水さんと一緒に、出版社や書店回りをやってるし、新刊の出版前になると原稿のチェック…校正っていうらしいんだけど、そういうのやったり、見本でいろいろ注文出したりもしてる。 本が仕上がって来たら、献本とか贈呈本に、サイン入れたり、お手紙を書いて着けたりもしてる。 出版されたらされたで、サイン会や握手会も、やってるし。 自分の作品作りに関係すること以外にも、テレビのコメンテーターを週2回やって、合間に、雑誌の企画で対談とか、インタビューも受けてる。 仕事のための取材や資料集めに、あっちこっち顔を出したり…。 もちろん、ここへ、千秋さんに会いに来る出版社の人やテレビ局の人達もいるから。その度に、打ち合わせだとかやってる。 私…知らなさすぎた。 事務所の社員は、こういうの全部、把握して理解して、その上で、雑務を粛々とこなしていかなくちゃならないんだ。 今更ながら、海斗の仕事について何もわかってなかったんだと、思い知らされた。 そして、私も、出来るようにならなくちゃならないって、自分で自分に発破を掛けた…。
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