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その日は、夏の暑い陽射しが照り付けるような日だった。
海斗は、図書館の解放日だからって、そっちの仕事をしていて、私は、一人で事務を任せてもらっていた。
「…少しは、慣れたか?」
速水さんが、声を掛けてくれた。
「いえ、まだまだです。私、建築事務所に勤めてたから、事務仕事なら、軽くこなせるなんて高をくくってました…。ここのお仕事、思ったより多いんですね。」
「まあ、夏の休みに向けて、前倒しの仕事が多いからな。それに、貧乏暇なしって言うだろう。」
「あのう…どう考えても、速水さんも千秋先生も、貧乏じゃないです。」
「はははは…こりゃ、参ったな。例えだよ、例え。
それになぁ、家の文豪先生は、お金は持ってても貧乏性なんだよ。質素で慎ましやかな日常生活を送ってるんだがな。」
「そうなんですか。」
「おっ、疑いの目だな、それは。」
「だって、このお屋敷見て、貧乏って言葉ほど縁遠いものないですよ。」
それは、私の本音だった。
「そうか、貧乏じゃないか。じゃあ、俺の家は、なんだ。」
「お金持ち…だけど…普通のお金持ちというのでもない気がします。何て言えばいいんだろう…。
ああ、本当に、ボキャブラリー少ないなぁ…。
とにかく、速水一家は、貧乏じゃないです。絶対に。」
一人百面相をしながら、言葉を探していた。
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