金木犀が香る街角で…

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「お金持ちね…まあ、金は、確かにあるな。だけど、その金は、普段使いの金じゃない。」 「…普段使いのお金?」 「日常の生活に使う金じゃあないってことだよ。普段は、質素に倹約した慎ましやかな生活を心掛ける。この屋敷を買うことになった切っ掛けが、まさしくその典型だな。」 「…このお屋敷、速水さんのお母さんの実家だって聞きました。なのに、買い取ったっていうのは、変じゃないですか。」 「そうだなぁ…変だなぁ…。でもな、一度、手を離れたら、それは、他人のものだ。手元に取り戻そうと思えば、それ相当のものを用意しなくちゃならないんだ。ここぐらい大きくなるとは、とんでもない金額だ。たまたま、家にはその金があって、千秋が手に入れたいと思った。それを家族が了承した。それだけのことだよ。」 「…でも、やっぱり、変です。それに、切っ掛け、私は知らないから納得出来ません。」 「君は、真っ直ぐだな。…真澄は、金さえあれば幸せって、手に入ると思うか?」 「思いません。」 「そうだな。俺も思わない。 金があったら、幸せかっていうとそうでもない。やっぱり、家族がいて、家族みんなが、元気で毎日過ごせる。それが一番の幸せだ。君は、誰よりも、その意味がわかると思うが。」 「そうですね…。家族みんなが元気なのが一番です。家族の誰かが欠けるって、辛いし痛いです。」 お父さんと香澄の顔が、一瞬、頭に浮かんだ…。
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