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「…ここに住んでた国枝家の人達は、金は、山ほどもっていたかもしれないけど、幸せだったかというと、みんながみんな、そうじゃなかった。実際、俺も、俺の母さんも、この屋敷の中では、幸せを掴めなかったんだからな。
でも、反面、この屋敷を手にいれることで、幸せだと思う人もいたわけだ。
母の妹である美佳叔母さんは、そうだったんだ。
…でもな、そんな叔母さんも、長い間、便利な街の暮らしにどっぷり浸かっていたから、結局は、ここを放り出して街へ戻ってしまった。結局、ここは、単なる借金のための担保でしかなくなったんだ。」
「担保ですか。ここ全部。」
「そうだよ。家なんて、人が住まなかったら、ただの物だ。ここは、人が生活する空間から、ただの物に成り下がったんだ。」
「じゃあ、その美佳叔母さんから、このお屋敷を買ったんですか?」
「名義は、後を継いだ叔父さんになってたけど、実質、叔母さんのものだな。」
「叔父さんは、叔母さんが、お屋敷を担保にしてたこと知らなかったんですか?」
「残念なことに、銀行の融資から、返済が滞ってるって連絡もらうまで、気が付かなかったんだ。そりゃそうだろう、ごくごく、一般的な生活してたら、ちょっとやそっとで底を尽く額の財産じゃないんだぞ。まさかと思うだろう。
国枝の名前に着いてる信用ってのは、半端ないんだ。しかも叔母さんは、生まれたときから国枝のお嬢様って括りをされて、なに不自由ない生活してきたからな、世の中の一般的な生活水準なんて、下の下だと信じて疑わなかったんだろうな。だから、薦められるまま、高級なブランドを買いまくり、旅行や食事だって、最高級でないと気がすまない人だからね。現金がなきゃ、カードで払いまくってたんだよ。仕舞いには、穴埋めのために相場に手を出して、大損こいたんだ。
金に糸目をつけずに散財しまくって、なくなったら、借金。これだけの敷地と建物、国枝の名前があれば、いくらでも融資してもらえる。
周囲のやつらは、いい金づる、いいカモだって思って、搾り取れるだけ搾り取ったんだろう。
で、尻拭いは叔父さんの仕事だな。そして最後は、俺にお鉢が回ってきたわけだ。一周回って戻ってきたって感じだよ。困るけどね、こういうのは。」
「…お金持ちも良し悪しですね。」
「そう、程々に、平凡なのが一番だよ。」
速水さんは、そう言って笑っていた。
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