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約束の時間が過ぎたのに、一向に笹森が現れない。
金木犀の側に立つ女の子は、笑いながら、俺を見ている…待て、落ち着いて考えろ、海斗。
約束の時間に、笹森が来ない。そして、誰かを待っている女の子…。
なあ、笹森の代わりに、あの女の子が、来たという考えは出来なくないか?
そこから、しばらく考えた。何回か、自問自答をした。そして…。
「あのう、すいません。誰かを待ってるんですか?俺も、友達を待ってるんですが、来なくて。
失礼ですけど、あなたは、どなたをお待ちなんですか?
差し支えなければ、教えていただけませんか?」
彼女は、小さく笑うと、ハスキーボイスで、答えてくれた。
「あら、待ち合わせしてるのに、ナンパですか?」
「ナ、ナンパぁ?!…ち、違いますよ!天地神明に誓って、違いますから!」
「フフフ…ごめんなさい。あなたを困らすつもりじゃないんですよ。
谷口海斗さん、私が待ってるのは、あなたですよ。私が、誰か、わからないんでしょ。フフフ…。」
俺は、予想が当たったことより、彼女のとてもチャーミングな笑顔に気持ちが持っていかれていた。
「…私は、そうね…何て呼んでもらおうかしら?…そうだわ。桂花がいいわ。金木犀の別名は、そう言うのよ♪今日1日、よろしくね♪」
今日1日よろしく?!
「…あっ、でも…俺、友達との待ち合わせが…。」
「笹森香澄でしょ。いいのよ。彼に頼まれたんだから。」
「…頼まれた?」
「そうよ。頼まれたの。行けなくなったから、代わりに、あなたとデートして来てってねっ♪」
そう言うと、俺の腕を取って、歩き出そうとする。ふんわりと彼女から沸き立つのは、金木犀の匂いを忘れさせる、シトラスの爽やかな香りだった…。
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