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食べたことのない超高級チーズケーキと、前方に立つイケメン店員。
頭の中でチーズケーキを思い浮かべて、視覚からイケメンを捉えているからこんなにドキドキするのかな……?
自分の思考回路が少しずれていることにも気付かないで、少しずつ歩みを進める列に押されて胸を昂らせる。
店から出てくる女性客達はみな一様に小さな白い箱を手にしていた。
ケーキ一個分の大きさの箱だ。これは一人1ピース限定ということで間違いなさそうだ。
店から出て行く客を見たり、自分の前に並ぶ人の頭の数を数えたり、挙動不審にきょろきょろとしていたら、イケメン店員と目が合った。
視線が絡んだのだと認識した途端、ぼんっと顔が真っ赤になる。
なんで!?
あの人男だよ!?緊張することないじゃないか!?
ぱっと目を逸らし、胸を押さえて、心身の穢れを取り払うべく冷水で滝行でもしている自分をイメージした。
列は牛歩の歩みさながらの進み具合だったが、目の前の女性客が店内へと入店する。
よし!次は俺の番だ!!
そう思ったが「お待ちくださいませ」と声までイケメンなこの店員に行く手を遮られ足を止めた。
胸中がどうしてか乱れるので、無意識に目の前のイケメン店員をシャットアウトして、ちらちらと店内を覗く。
店内は木目調のブラウンで統一されていて、やはりどこかアンティークさが漂っている。
入ってすぐのところにガラスのショーケース。その中に、ちょっとこの辺りじゃ見ないような小洒落た総菜とスィーツが並んでいた。その奥に飲食スペース。奥行があって結構広い。
店内にいた5人のうち、一人がまた白い箱を手に店を出る。
次は、俺の番だ……。やっと、やっと、ずっと待っていた、この時をーーー!!
その時微かに店内から業務連絡を伝えるような声が聞こえてきて、俺は耳を傾けた。
え……?
「ごめん!最後の一個落としちゃってー……」
「マジかよ。もー、どんくせーな。しょうがないからここまでか。野中ー!」
中にいた別の男性店員が目の前のイケメンに向かって大きく腕をクロスしてバッテンのポーズをして見せる。
俺は瞬間に悟った。
終わった……。
「申し訳ございません。本日の限定販売は終了致しました、ありがとうございました」
目の前のイケメンがイケボで何か言っている。
列の後方からは喪失感丸出しの溜息が聞こえた。
これだけを楽しみにしてきたのに……。
目の前が暗くなり、目頭が熱くなる。
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