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食べたかった……。
悔しさに目の前が涙でぼやけ、ついで、あまりのショックにしばらく動けなかった。
ぐいっと袖口で目元を拭うと、目の前に、爪楊枝で突き刺された小さなケーキの欠片。
「形崩れちまったんだけど……食うか?」
濁っていた視界が急に開けたように感じて、目を凝らす。
それは紛れもなく、俺が待ち望んでいた、ベイクドチーズケーキ!!
濃厚なチーズの香りとレモンの爽やかな香りが、甘く焼けたビスケット台の香りと混じり合い、間違いなく最高級スイーツだと脳の感覚野が叫んでいた。
俺は潤んだ目で目の前の男を見上げ、こくりと頷く。
「ほら」
口元へと近づいてくるケーキの欠片。表面の絶妙な焦げ目、土台の隙間から見えるとろけたチーズが照り照りに輝いていて、俺は思わずひな鳥よろしく口を開けて、中へ放り込まれるのを待った。
ぱくっーーーー。
リンゴーン、リンゴーン……。
濃厚で奥深い、初めて食べた甘やかなケーキの欠片とともに、眼前の野中さんを視界いっぱいに写し、俺の頭で祝福の鐘が鳴った。
終わり(゚д゚)!
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