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トートは首を投げ出すようにして覗くと、キーコはそのままの姿勢で眺めました。
「キーコさんほら見て、男の子と女の子のお子さんよ、可愛いわね」
アニーを振り向いて「幾つだ?」
キーコは突っ慳貪に尋ねる自分に気づいていました。
「ああ、日本で言えば、幼稚園の年長組と年少組だ」
アニーはキーコの言葉の荒さは知っていましたが、でもどこか刺らしき物言いに引っ掛かるのでした。
「姉さんには背負いきれない程の恩があるのに、なんの報告もなく済まないと思っている」
「…………」
「俺の言葉づかいが気になるのなら許して欲しい。
軍隊での生活が身に染み付いたらしい」
トートは息を呑む思いで二人の会話を聞いていました。
「アニー、お前の嫁さんは顔の火傷のことは……」
「あ、この写真では分からないが、嫁さんは子供のころ地雷を踏んで両足を失なってしまった」
「そうか……つまらない事を訊いたな」
「いや、姉さんがこんな俺を愛して育ててくれたように、俺は誰かにその恩を返してあげたまでのことだ」
「…………」
「だけど、勘違いしないでほしい。俺は施しでチニタと一緒になったのではない。
その不自由な両足で、懸命に負傷した兵士を介護する姿に惚れたんだ」
トートは涙しながら大きな拍手を送りました。
キーコはゆっくりとワインを手にすると………。
「嫁さんの名はチニタと言うのか。
アニー、ワイン飲むか? いいんだろう?」
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