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顔を離した後、彼女の瞳の色が栗色であることを知った。
少しの静寂の後、僕はかけるべき言葉が見つからず、ポケットに入っていた五百ペソを彼女の手に握らせて、
「タクシーを拾って帰るといい。もう遅いし……、それに夜道は危ないから」
そう言って僕が自分の部屋に戻ろうとしたが、彼女は手を離さなかった。
暑い外気のせいか掴まれた手が汗ばんでいた。
僕はもう一度異国の女の目を見た。
栗色の目がホテルのオレンジの光を反射している。
母国語も違う、生まれ育ちも違う、ましてや性別さえも違う彼女の考えていることは僕に分かるはずもなく、僕らは暫く見つめ合っていた。
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