序章

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どたどたと階段を駆け下り、そのまま真っ直ぐ玄関に向かった。 そのとき、台所から竜也の母親の声が飛んで来た。 「竜也、あんたどこ行くの?」 ……あれ? その声を聞いた瞬間、竜也はなぜか妙な違和感を覚えた。なんだろう。何か違う。何かがおかしい。 が、それは何なのかは分からない。いくら考えて見ても、どうしても分からない。 ──まあいい。 大切なことなら、後で思い出せるだろう。今は時間が無い。 そう思った竜也は結局諦め、用意した水着一式の入ったプールバッグを背中にかけた。そして、スニーカーを履きながら、母の声がした方に向かって大声で返す。 「市営のプールだよ!」 その言葉を発するが早いか、竜也は母親の返事を待たず、慌てて家を後にした。 竜也は走りながら、背中でオートロックの扉が閉まる音を聞いた。 そう、だから竜也は気付かなかったのだ。その時の異変に──。
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